私的蹴球論 22 欧州の歴史は分裂と統合の繰り返し
今の時期、周知の通り世界中がコロナウィルスの問題で蔓延している。そのためバスケもサッカーも試合がなく、スポーツビジネス論を考えるにしても運営自体が開店休業状態のため情報や知識がアップデートできていない。
そうしたスポーツ界が前を向いて進めないのなら、個人的には後ろを見て過去の歴史を振り返ってみようと思ってみた昨今である。
そうしたタイトルが今回のテーマである「欧州の歴史は分裂と統合の繰り返し」だ。
今の時代、一番巨大化したプロスポーツというのは紛れもなくサッカーである。そうしたサッカーの母国はイングランドである。
しかしサッカーの場合、五輪のような大会を除き、イギリス代表というのは存在しないわけで、基本的に国際大会ではイングランド代表やスコットランド代表となる。それはなぜかという話だ。
こうしたサッカーの国際大会にも関係することが歴史にも影響する。
もともとイングランドとスコットランドという地域は別々の国であった。言葉や宗教も両地域間で微妙に違い、お互いの地域同士に貿易で関税もかけられていたりもされていた。
17世紀後半から18世紀前半のスコットランドというのも大航海時代で、スコットランドも他の欧州の国同様に、新大陸への野心をギラギラさせていた。
しかしそうした領土欲に利害関係が絡むイングランドは東インド会社を通じて、スコットランドの貿易会社に様々な圧力や嫌がらせをスコットランドのパナマ運河などの新大陸への利権を阻むようにする。
結局、スコットランドの王朝は世継ぎもいなくなり、1707年にスコットランドはイングランドに合邦することになる。
スコットランド人はイングランドのこうした圧力によって独立できなくなったので、サッカーの国際大会でイングランドの敵をいつも応援するのである。
他にもそんな国はある。有名なところではスペイン。知られた話であるが1936年から39年の間、スペインでは右派と左派が分裂して内戦がおこった。いわゆるスペイン内戦である。
余談だがこのスペイン内戦の時に、右派のフランコ将軍に味方したナチスのヒトラーが空爆して、それを批判するためにピカソが描いたのがかの有名な「ゲルニカ」だ。
こうした内戦の間、右派のフランコはスペイン国内にカスティーリャ語(スペイン語)を国民に強要した。
しかし地元に誇りを持つバルセロナ周辺のカタルーニャ人はカタルーニャ語を使いたい。そのカタルーニャ語を使えるのがFCバルセロナのあるカンプ・ノウの観客席だけであった。
そうした歴史的経緯からカンプ・ノウの客席には「クラブ以上のクラブ」と書かれているのである。
他にも分裂危機のある国はある。2018年のロシアW杯で日本代表が対戦したベルギーである。
イギリスやスペインに比べるとあまり知られていないがベルギーも民族に多様性がある国だ。北部のフランドル地方はオランダ語を話すのに対し、南部のワロン地方はフランス語を話す。日本代表の冨安健洋などが在籍していたシントトロイデンは北部のオランダ語圏だ。
日本にいるとベルギーの政治は分かりづらいがこのフランドル地方とワロン地方は常に政治的な分裂危機にあり、そうした違う民族のいさかいというのをベルギー国王の影響力をもってして一つにまとめているのだ。
今回はこうしたサッカーの盛んな欧州の国というのが歴史的な経緯があってとりあえず統合されているが、欧州各地でそうした統合された国がまた分裂する可能性というのが大いにある、というのを筆者は声を大にして言いたい。
今回はスポーツの中断期間ですべての競技が前に進めない状況にあるので、それなら後ろを振り返ってみようと思って今回の記事を書いた。
今回書いた国以外でも欧州の国境線が変化する可能性はある。まさに「欧州の歴史は分裂と統合の繰り返し」である。